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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)1307号 判決

控訴人 大谷イトヱ

右訴訟代理人弁護士 中西保之

被控訴人 株式会社 むさし野

右代表者代表取締役 太田タネ

右訴訟代理人弁護士 奥田忠司

同 奥田忠策

主文

本件控訴を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

奈良地方裁判所は同庁昭和三三年(ワ)第一八七号家屋収去土地明渡等請求事件に付昭和三八年七月二六日午後一時判決の言渡をなし記録編綴の送達報告書の記載によれば右判決正本は即日原告訴訟代理人弁護士中西保之に送達せられているところ、原告(控訴人)は同年八月一〇日奈良地方裁判所に控訴状を提出して右判決に対する控訴の申立をした。

控訴代理人は「控訴代理人において本件原審判決正本を手交により送達を受けたのは昭和三八年七月三〇日である。控訴代理人は、同日午後三時頃奈良地方裁判所の書記官室か或は同裁判所構内の弁護士室において、右判決正本を受領し、その送達報告書に署名捺印したものであつて、該送達報告書に、送達時期を昭和三八年七月二六日と記載してあつても、それは誤記である」旨陳述し、立証≪以下省略≫

理由

本件控訴が法定期間内に提起されたものであるか否かについて審査する。

本件記録によれば、原判決は昭和三八年七月二六日午後一時に言渡され、即日裁判所書記官小林昭男が、その原本を受領し、被控訴人に対する右判決正本の送達は、その訴訟代理人であつた訴外奥田忠司に対し、大阪市北区樋上町三丁目にあるその事務所に郵便によつてなされ、右言渡の翌日である同年同月二七日午前一一時に到達している。控訴人に対する右判決正本の送達は、その訴訟代理人であつた訴外中西保之に対し、手交して送達され、その送達報告書(記録一七二丁)には、「奈良地方裁判所書記官小林昭男が、昭和三八年七月二六日午後二時、原判決正本を右中西保之に手交して送達した」旨記載されており、本件控訴は同年八月一〇日控訴状を原審裁判所である奈良地方裁判所に提出してなされていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実に、≪証拠省略≫を綜合すれば、奈良地方裁判所においては、奈良市内在住の弁護士に対し、書類を送達する場合、受送達者の弁護士が、同裁判所構内にある弁護士室に、出頭しているか否かを確め、出頭しているときには、裁判所書記官の命を受けた裁判所事務官が、右弁護士室に赴き、同所で、その弁護士に直接交付し、その時出頭していなくても、間もなく出頭することが予想されるときには、同弁護士室に勤務する弁護士会の事務員に、送達書類と送達報告書(送達書類名、受送達者名、送達年月日を記載したもの)とを渡して、その交付方を依頼し、同事務員が、当該弁護士に送達書類を交付して、送達報告書に、当該弁護士より書類受領者としての署名捺印と受領時刻の記載とを得、ときには同事務員がその署名と受領時刻とを代書し、右送達報告書を裁判所に返送を受ける方法(若し、当日該弁護士が出頭せずして交付できないときには、当日の夕方右事務員より送達書類の返却を受け、後日その送達報告書を使用するときは、その送達日を訂正する)によることも慣行として実行されて来たものであるところ、奈良市在住の前記訴外中西保之弁護士に対する書類の送達については、期日呼出状等は右の方法によることもあつたが、判決正本に関する限りは未だ曽て右の方法によつた例はなく、常に郵便による送達をしていた。ところが本件係裁判所書記官であつた訴外小林昭男は言渡後即日判決原本の交付を受けて、直ちにその正本を作成し、当事者に対する送達を裁判所事務官訴外猪谷ヒサ子に命じたところ、同事務官は原審被告(被控訴人)の訴訟代理人であつた訴外奥田忠司弁護士に対しては、右判決正本を、即日郵便により発送したが、原審原告(控訴人)の訴訟代理人であつた訴外中西保之弁護士に対しては、同日前記弁護士会事務員訴外桐山敏子に前記弁護士室に訴外中西保之弁護士が在室するか否かを尋ね、間もなく来るという返事であつたので、直ちに右判決正本に送達報告書(送達書類を判決正本、受送達者を中西保之、送達日を昭和三八年七月二六日と記載したもの)を添えて、右訴外桐山敏子に、これらを手渡して訴外中西保之弁護士に対する交付方を依頼した。間もなく前記弁護士室に出頭した訴外中西保之弁護士は、右事務員から右判決正本を手渡されて異議なくこれを受領し、引きかえに右送達報告書の書類受領者の欄に押印したうえ、これを右事務員に渡し、同事務員は、これを、前記裁判所事務官訴外猪谷ヒサ子に返し、同裁判所事務官が、即時、該送達報告書の送達時刻欄に、その時の時刻午後二時と記入したことが認められ、右認定に反する≪証拠省略≫は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

更にまた前記認定によれば、訴外中西保之弁護士に対する判決正本の送達は、本件以外はすべて郵便によつてなされ、原判決原本は、その言渡当日係書記官に交付され、同書記官は即日その正本を作成し、原審被告(被控訴人)代理人には即日、その正本が郵便により発送されているのであるから、若し、原判決正本が、その言渡当日に、原審原告(控訴人)代理人中西保之弁護士に対し前記認定のよう方法と経過をもつて送達されていたのでなかつたとすれば、当然、右判決正本は、その日又はその翌日に、右原審被告(被控訴人)代理人に対すると同様に、右中西保之弁護士に対して、郵便により送達されていた筈であることが認められる。

以上認定の事実によれば、原判決正本が、原審原告(控訴人)訴訟代理人訴外中西保之に送達された日は昭和三八年七月二六日にして、前記(記録一七二丁)送達報告書の記載は真実に合致するものであると認めるに足りる。

そして前記認定の状況の下において、裁判所書記官が、その補助者である裁判所事務官並びに弁護士会の事務員を介してなした送達が有効であることは、民訴法第一六九条第二項後段により明らかである。

そうすると控訴人は昭和三八年七月二六日原判決正本の送達を受け、控訴状を同年八月一〇日原審裁判所に提出して本件控訴を提起したものであるから、本件控訴提起は、二週間の控訴期間経過後になされた不適法のもので、その欠缺は補正できないものといわなければならない。

よつて民訴法第八九条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 日野達蔵 裁判官 宮川種一郎 常安政夫)

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